2014年5月2日金曜日

どらごんたらし 1章

魔物と呼ばれる存在が、この地上から一掃されて数百年。
平和ながらも退屈な日常を過ぎしていた俺に、事件とも言える出来事が起こった。

それは17歳の春だった。
突然、初対面の女の子に告げられた。

「私を、飼ってくれませんか?」

その子は鳶色の目を持った、誰もが認めるだろう、銀髪のショートカットの美少女で。


俺はもちろん……

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ドラゴン使いという職業がある。

ドラゴン。
それは最強の生物の称号を冠する、この世界で最も巨大な生物。
その体躯は、大きいものでは城ほどの大きさを誇るものすら存在する。
個体により、様々な種類のブレスを操り、鉄よりも固い鱗、岩盤すらも易々と打ち砕く強力な爪と牙を有す。
その圧倒的力を持つ最強の生物、ドラゴンを、意のままに使役し従える者。

それがドラゴン使い。

戦いともなればドラゴンの背に乗り、大空を駆け、支配する。
竜の力を最大限に引き出し、さらには竜と深く結びつく事により、その身に竜の力を宿す事もできる。
誰もがなれるわけではない、選ばれた職業。
そしてここ、冒険者育成学園においてただ一人。
この俺、ギース=シェイカーは、そのエリート職。ドラゴン使いの卵として、将来を期待されていた。

「ちょっと、一般人」

そして、学園内の生徒達からは、やはり一目置かれているからなのか、近づきがたい存在なのか、クラス内でも一人孤立した孤高の存在として……。

「ちょっと、一般人!呼ばれたらすぐ返事ぐらいしなさいよ!あんた、ケルベロスに頭かじらせるわよ!」
「ひい!な、なんですかアリサさん!」
俺は、崇高な自分哲学。
もとい。
自分への言い訳の現実逃避を中断し、物騒な脅しをしてきた美少女にあわてて返事をする。
美少女。
そう、美少女だった。
頭に、とてつもないという表現が付く位の美少女、アリサ=リックスター。
眉目秀麗、学業堪能。素手や武器を使っての戦闘訓練においても、男子生徒を含めてすら、学園上位陣にいるとんでも女。
おまけに、代々続く由緒正しい家柄の、魔獣使い一族の名家のお嬢様でもある。
そして、その由緒正しい家柄の、アリサ自身ももちろん、この学園において魔獣使いを専攻していた。
名家のお嬢様らしい、腰まで流れる金糸の髪。
そして、若干キツメの青い瞳が俺の眼前に近づいてきた。
「分かってんでしょうね!一般人のあんたでも、試合会場の設営くらいはできるでしょう?今回は1、2年合同の個人ごとのトーナメント戦なんだからね。参加しないあなたにも、それなりに働いてもらうわよ。こないだのクラス対抗戦の時みたいに、みんなの荷物抱えたまま行き倒れたりなんて恥だけは、もう晒さないでよね、今回は一年も見てるんだから!」
可愛い顔とは裏腹に、キツイ物言いのこの娘。
よりにもよってこの女、ドラゴン使いの俺を、一般人呼ばわりしてくれた。
「………前回は悪かったよ。でも、そう言うんなら、みんな自分の荷物くらい持ってくれたってよかっただろ?それに………。俺は、一般人じゃない」
そう、これはきちんと言っておくべきこと。
俺はシェイカー一族のドラゴン使い。
それにアリサは、嫌そうに顔をしかめて言い放った。
「はいはい。そうね、あなたは一般人じゃなくドラゴン使いね。『冒険者のお荷物職』なんてよばれるドラゴン使い。この学園でそんな奇特な職業目指してるのなんて、あなたくらいのものよね」
「うう………」
お荷物職………。その言葉に、クラスの連中がクスクス笑う。
俺がアリサに何も言い返せずにいると、アリサはさらに言葉を続けた。
「今の時代、唯でさえいらない子のドラゴン使い。その時点でみんなの荷物持ちくらいはしてくれてもいいと思うんだけど。ついでに言うならあなた。………使役しているドラゴン。一匹もいないじゃない」

………ドラゴン使いと言う職業がある。
それは、ドラゴンを手足のごとく使役する者。
そして、未だドラゴンを一匹も持っていない俺は、確かに一般人だった。

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冒険者のお荷物職。
そう呼ばれるのも仕方がない。
国家間で戦争が起こっていた頃。
街道がロクに整備もされず、そこかしこを魔物と呼ばれる存在が徘徊していた昔。
ドラゴン使いがもてはやされていたのはそんな時代。
今はもう、人の手が入っていない土地などほとんどなく、この地上において人に害をなす魔物なんてものは、軒並み駆除されてしまっていた。
戦争なんて、それこそ何百年も起きていない。
ほとんどの者は、ただなんとなく学校へ行き、何らかの平凡な職に就くことになる。
魔王や勇者なんてものが居たのはもう数百年も昔の話だ。
今や、夢を抱き、冒険に憧れる者が挑む場所は、平和なこの時代には限られている。
何時のころからあったのか、この世界各地に存在する、誰が何の目的で作ったのかも分からない地下迷宮。
それらダンジョンの探索が、冒険者と呼ばれる者に残された、唯一の冒険の場だった。
巨大な地下迷宮ともなれば、ドラゴンを連れて入ることもできるのかもしれないが、そんな迷宮はごく希だ。
ドラゴン使い。ドラゴンがいなければ唯の人。
身体の大きなドラゴンが入れない地下迷宮など山ほどある。
そんな所でドラゴン使いにできる事と言えば、せいぜいが荷物持ちくらいなものだ。
ドラゴンの力を一時的に身体に宿し、強力な力を得る竜言語魔法なんてものもあるが、それも近くにドラゴンがいなければ使えない。
そんな訳で、大昔には英雄扱いされていたドラゴン使いも、今やネタ職業的な存在と化していた。
そして、さきほどアリサに言われた事だが、重大な事がもう一つ。

「………俺も、ドラゴン飼いてーな………」

そう。
俺はまだドラゴンを持っていない。
唯でさえお荷物呼ばわりされているドラゴン使いなのに、今の俺はそれ以上にお荷物だった。
とはいえ、ドラゴンなんぞその辺にホイホイ落ちている物でもない。

………………帰ろ。

これ以上考えると眠れなくなりそうなので、深く考えずに帰宅しようと、学園の門をくぐる。

「それ、本当ですか?」

その時だった。
突然後ろから掛けられた声に振り向くと、そこには銀髪の少女が立っていた。
なんだか見たことのある女の子だ。
ああ、そうだ。確か………
「初めまして、ギース先輩。一年の、ラミネス=セレスといいます」
「知ってるよ。有名だもんな」
ラミネス=セレス。色んな意味で有名な一年生。
まず一つ。成績の面で有名だった。
二年のトップがアリサなら、一年のトップがこのラミネス。
天才肌のアリサとは違い、相当な努力家だと言うのを聞いた事がある。
次に、その容姿。
珍しい銀髪に、鳶色の瞳。そして、子供っぽいながらも類まれな美貌。引き締まった体躯と………
その、銀髪の中から後ろへと突き出した、銀色の2本の角と、スカートから覗く、同じく銀色のとかげの尻尾。
彼女がこの学園で有名な、最も大きな理由。
ラミネス=セレスは、ドラゴンハーフだ。

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「ええと、なんでしょう?」
相手は一年なのに、思わず敬語になってしまう。
相手は一年のトップにして、しかもドラゴンハーフなんて希少種だ。
ドラゴンハーフは、人の姿を取ることができるドラゴンと人間との相の子。
人の姿になれるドラゴンは、長い年月を生き抜いた上位種に限られている。
その数少ない上位種のドラゴンが人と結ばれる例なんて、本当に稀有な事だ。
ドラゴンハーフは、ドラゴンの持つ頑強さと体力、魔力、俊敏性。
そして、人の器用さと知能を持つ。
どんな職業についても活躍が期待できる、期待のエリート冒険者候補だ。
そんな彼女は、俺を真っ直ぐ見つめると、意を決した表情で告げてきた。
「先輩………。私を、私を飼ってください!」
突然のとんでも発言に、俺と同じく下校中だった周りの生徒がギョッとする。
周囲の視線が、自然と俺に集まった。
「………い、嫌です」
………………。
ラミネスが、微動だに一つしないで、表情も変えずに息を吸う。
「私を、飼ってくれませんか?」
「嫌」
………。
ラミネスが動かなくなった。
「な、なんでですかっ!」
「うおっ!」
先程までの落ち着いた感じはどこへやら、突如凄い剣幕で咬みついてくるラミネス。
「なぜですか!?やっぱ、私がハーフだからですか!?理由を教えてくださいよ!」
「い、いやだって、気持ちは嬉しいが、初対面で、しかもこんな公衆の面前で、いきなりそんなふしだらな事を言われても………」
「………はっ?えっ、ふしだら………」
俺の言葉に、ラミネスは自分で言ったセリフを思い返し、とたんに顔を赤らめ慌てふためく。
「ちちちち、違います!違いますよ、何言ってんですか、そんな意味じゃないですよ!」
「………?そんな意味じゃなきゃどんな意味なんだ?ご主人様と犬みたいな関係を築きたいって言うんだろ?」
その言葉に周囲がざわつく。
いつの間にか、かなりの野次馬が集まっていた。
「ご主人様と犬っていうより、ご主人様とドラゴンって言うか………。と、とにかくっ!ちょっと一緒に来てください!」
ざわめく周囲をよそに、顔を赤らめ涙目になっているラミネスに、俺は成すすべなく引っ張られていったのだった。

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「先ほどは、私もいきなりすぎました。順を追って話をしますね」
最初からそうして欲しかった。
連れてこられたのは、学園から少し離れた国立公園。散歩している人位はいるものの、ここなら話をしていても目を引くことは………。
いや、ラミネスの、スカートの下から伸びた尻尾に頭のツノ。
やはり珍しいのか、ちらちらと視線を飛ばす者もいた。
学園生でもないし、まあいいか。
「で、結局どうしたんだ?いきなりの熱烈アプローチだったが、俺にそこまで惚れる要素があるか?自分で言うのもなんだけど、あまりパッとしない事ぐらい分かってるぞ?」
言ってて悲しくなるが、そこは流石に自覚している。
黒髪、黒目、中肉中背。
入学初日に怖い先輩に絡まれる程度の生まれつきの目つきの悪さ以外、至って普通の外見だ。
顔はまあ、ブサイク………ではないはずだ、うん。普通水準はあると言い張りたい。
ラミネスが、困った顔で息をつく。
「はぁ………。まず、そこから誤解なんです。聞きたいんですが、先輩はドラゴン使いですよね?」
ドラゴンを所有していないのにドラゴン使いを名乗ってもいいものかは知らないが、学園証にも『ドラゴン使い見習い』と書いてあるし、いいのだろう。
無言で頷く俺をラミネスは真っ直ぐ見つめ。
「先輩、私は半分ですがドラゴンの血を引いています。そして、ドラゴン使いの先輩は現在、飼っているドラゴンはいない。そこで相談なんですが………。私と、ドラゴン使いとドラゴンとの、パートナー契約………。主従の関係を結びませんか?」
………。
………………。
………………………。

「んだよ、もおぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

俺は頭を抱えて思い切り絶叫していた。
俺の突然の叫びにラミネスがびくっとしているがどうでもいい。
つまりだ、別に告白でもいかがわしい話でもなく、単に学園内にドラゴン使いが俺しかいないから選ばれた、ただそれだけの話!
「なんだよ思わせぶりな言い回ししやがって!ああ、分かってたよ、分かってたさ!こんなうまい話があるわけない、どうせなんかしょーもない落ちがあるんだろうなって事ぐらいは!常日頃から、何の脈絡もなく美少女に告られたらどうしようとか、朝起きて、隣に美少女が寝てたらどうしようとか、空から美少女が降ってきたらどうしようとか、万が一
そんな事が起きた時の為のシミュレーションはしていたが、ああ、そんな事起こるわけない事ぐらいは理解してたさ!」
「シ、シミュレーションしてたんですか………」
ラミネスが、ちょっと引いた様な顔で後ずさった。
「だがなあ、ちょっと心のどこかで期待だってしてたんだ。この世の中、何があっても不思議じゃないって。夢や希望を諦めるのは、愚か者のすることだって!」
「ゆ、夢や………希望………」
微妙な表情を浮かべてラミネスが呟く。
そんなラミネスをビシと指さすと、ラミネスがまた一歩後ずさった。
「そう、夢や希望!正直、いきなりあんなこと言われて嬉しかったさ!内心ドギマギしつつ、ここは紳士に。ガッつくな!シミュレーション通りに、先輩としての余裕って奴を見せてやれってな!ああ、正直お前みたいな美少女にあんなこと言われたら舞い上がりもするさ!」
「え、あ、そ、その………。ど、どもです………」
顔を赤らめながら、戸惑いながらもちょっと照れた様にはにかむラミネス。
ちくしょう、可愛いじゃねえか!
「ちきしょおおおお!勉強も普通!運動も普通!ああ、何もかも普通でぱっとしない!彼女もいなけりゃ友達もいない!あるのは、代々受け継いだドラゴン使いの能力だけ!しかも今の世の中、ドラゴン使いはいらない子ときたもんだ!」
「な、涙目でそんな事私に言われても!ていうか、聞いてください!先輩の、そのドラゴン使いの能力は、素晴らしいものなんです。私にとっては、あなたはいらない子なんかじゃない!大事な人なんですよ!」
俺のテンションに影響されたのか、顔を真っ赤にして叫び返してくるラミネス。
「ドラゴン使いが今の世に必要とされないのは、ドラゴンを連れていける冒険の場がないからでしょう?ドラゴンから離れると、ドラゴン使いはその力が使えないからでしょう?私なら、ダンジョンだってどこだって、ずっとずっとそばにいれます。あなたが一緒に居てくれたなら、一緒に高みに登れます。ドラゴン使いはお荷物なんかじゃない。私は、ドラゴン使いの強さを知っています!」
ラミネスは、真っ直ぐ俺の目を正面から見つめると、いつの間にこんなに近くにきていたのか、俺の両肩をがしっと掴む。
「先輩!ずっとずっと、私と一緒に歩いてください!」
………これってプロポーズじゃないよな?
(ねぇ、あれってプロポーズ?)
(そうみたい。女の子の方からなんて、だいたん………)
(すげー、プロポーズだー)
公園内にまばらに居た人達が、やりとりを聞いていたらしくあちこちで話題にしている。
これだけ大声で叫んでいれば、聞こえないわけがない。
「え、ええと………。一晩考えさせてもらってもいいか?」
ラミネスにも周囲の声が聞こえたのか、見る見るうちに顔を赤くさせ、こくこくと頷いた。

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「明日、学校が終わったら、この場所で待ってますから!」
ラミネスと別れた帰り道。
俺は、少し冷静になって考えていた。
この話が、実はかなり悪くない事に。
ラミネスは純潔のドラゴンではない。ないが、確かにあいつといればドラゴン使いとしての能力が使えるようになるだろう。
ドラゴン使いの能力は、ドラゴンを強化し、その本来の力を引き出してやること。
そしてもう一つ。
ドラゴン使いはドラゴンから力を借り受け、自身にその力を宿す事ができる。
術者によっては、ドラゴンと同等レベルの力を手にすることすらできるという。
ラミネスはドラゴンハーフだ。
純血のドラゴンには及ばないにしても、それでも、ドラゴン使いとしての能力が使えるようになる。成人していないラミネスだと、契約は仮契約にはなるだろうが、それでも十分すぎる力がある。それに、ラミネスと一緒ならダンジョンだろうがどこだろうが活躍できるようになる。
純血のドラゴンを従えて、使い勝手は悪いが強大な力を手に入れるか。
ラミネスと共に、どんな所でも活躍が見込めるドラゴン使いになるか。
正直言って、かなり魅力的な申し出ではなかろーか。
そもそも、ドラゴンなんてそうそうそこいらを歩いている物ではない。
ドラゴンを手に入れるというのは、ペットショップで犬猫を買うのとはわけが違うのだ。
ドラゴンの卵などが売りに出されないこともないが、大抵は法外な値段が付く。
ドラゴン使いが買うのではなく、一部の富豪達が、ステータスとしてドラゴンを買うのだ。

うーむと唸りながら歩いている内に家に着く。
見てくれだけは立派な、大きな我が家。
今は落ちぶれたとはいえ、一応は由緒正しいドラゴン使いの一族だ。
何代にも渡っていくうちに財産を切り売りもしてきたが、屋敷と裏山だけは残っていた。
「おい、親父ー」
無駄に広さだけはある古い屋敷。
俺は、父親と二人、その屋敷に住んでいた。
空き部屋だらけの中の一室。父親が、仕事部屋として使っている部屋をノックする。
「おう、お帰りー」
部屋に入ると、こちらを振り返りはせず何かに没頭したまま返事だけを返してきた。
「ん、もう飯か?」
「ちがわい」
父親は絵描きだ。頭に、売れないが付くタイプの。
先祖の遺産を切り売りしながら生活しているが、それもあと数年で尽きるだろう。
それもひっくるめて、今回のラミネスの話は理想的だった。
ラミネスと一緒なら、卒業後、すぐに冒険者として生計が立てていける。
「なあ、親父。もしかしたらドラゴンを飼う事ができるかも」
それがハーフの女の子という事は、今は言わないでいいだろう。
あっ、そういやラミネスと主従契約したら、あいつはここに住むんだろうか。
ドラゴンを飼うって事は、一緒に暮らすっていう事だ。
なんだろう、なんだか素敵な展開が見えてきた気がする。
「ほう、そりゃ良かったじゃないか。家のドラゴンは、ちょっと使い物にならないしなぁ」
パレットに絵具を塗りたくりながら、親父がそんな事を………。
「………家のドラゴン?」
親父が何気なく放った一言に、思わず聞き返す。
このおっさん、今なんつった。
「ん?家に代々伝わってるドラゴンだよ。お前が生まれるずっと昔から、裏山に住んでるぞ?お前は見たことなかったんだっけか?」
さらっと言った父親に、俺は背後から掴みかかり親父の身体を揺さぶった。
「初耳だよ!俺がドラゴン使い目指してる事知ってんだろ!なんでそんな大事なこと言ってくれなかったんだよ、おい!」
「うおっ!こら、止めろ!筆が狂うじゃないか!」
「あんたの絵はもうすでに狂ってるだろ!そんな売れない絵なんかどうでもいい!おい、どういう事か説明しろよ!」

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「ほら、ここだ。俺はもう戻るから、お前は好きにしろ。でも、がっかりすると思うぞ?」
親父に連れてこられたのは裏山の中腹にある洞窟だった。
はるか昔から、代々我が家で使役されてきたドラゴン。
ウチが一応元名家として名を馳せていたのもそのドラゴンのおかげらしい。
頑強な扉には鍵が掛けられ、厳重に封印されていた。
俺は親父を見送り、渡された鍵で扉を開ける。
ドラゴンを飼っているだけあり、かなりの広さを持った洞窟内は、意外にも明るかった。
きっとご先祖様が植えたのだろう、そこかしこの壁に光り苔が植えられている。
かなり奥深くまである洞窟を進んでいくと、通路から、開けた空間に繋がった。
広々とした開けたそこには、一匹のドラゴンが居た。
中央にうつぶせの状態で横たわり、長い尻尾が地面に伸ばされている。
そして、親父が言っていた意味を即座に理解する。

ドラゴンは、深く眠っていた。

俺が100回ほど呼吸する間に、ようやくドラゴンが一回呼吸を終える。
それほどに、深く眠っていた。
その巨大なフォルム。
トカゲの頭の後ろから2本の角を突き出させ、翼を付けて、肉食獣を思わせる爪を伸ばす。
そして体表の鱗を黒く、そして滑らかにし、それを民家並みに巨大化させればこんな姿になるだろうか。
首には強力な魔法の掛かった首輪が付けられ、そこから伸びた鎖が、洞窟の最奥の隅へと繋がっていた。
気付けば、俺はそこにどの位立ち尽くしていたのだろう。
そのドラゴンは、とても美しかった。
一体どれだけの時を眠っているのだろう、身体の表面には厚く埃が積もっていた。
その埃の下の、金属を思わせるような光沢を放つ黒い鱗。
戦うために生み出されたとしか思えない、美しく、機能的なフォルムと存在感に、俺は自分が、ドラゴン使いになりたかった理由を思い出した。
ドラゴン。
俺はこの生物に、ずっと昔から魅せられてたんだ。

「いつまでも見とれてる場合じゃないな」

そっとドラゴンに近づいて行く。ドラゴンが怖いからじゃない。
なんだか、起こしてしまってはかわいそうだという気にさせられてしまったのだ。
ドラゴンは、一度深い眠りにつくと、時には数百年も眠り続ける。
ご先祖様も色々起こそうとはしたのだろう。それでも起きなかったんだろうし、きっとこんな気遣いはいらないのだろうが。
そっとドラゴンの頭に手を触れてみる。金属の様な鱗が、硬く、冷たい。
だが、時折吐き出される息が暖かかった。
このドラゴンは確かに生きている。だが、一体いつ目覚めるとも分からない。
「せっかく、こんなにも綺麗なドラゴンなのに………」
俺が今まで見てきた中で、このドラゴンは飛びぬけて美しかった。
それだけに、目を覚まさないのが本当に勿体ない。
きっとこのドラゴンは、これからもいつ目覚めるともなくここで眠り続けるのだろう。
「………埃だけでも落としてやるか」
屋敷から、乾いた布やはたき、そして高級な調度品があった頃の名残だろう、今は使わなくなった、調度品を磨き上げるためのワックス等を持ってくる。
結局俺は、晩飯を食うことも眠ることも忘れ、眠り続けるドラゴンの身体を磨き上げていった。
その巨体をぴかぴかにする頃には、深夜をとっくに過ぎていた。
磨き上げられたそのフォルムを眺め、俺は思わず身震いする。
かっこよすぎだろ、これは。
ワックスを掛けられた鱗の一つに手をやり、そっと撫でてみると、キュッキュッと音がした。
………今夜はここで寝よう。
その姿にすっかり惚れ込んでしまった俺は、毛布を一枚持ってくるとドラゴンの頭に寄り添った。こんな巨大な生物なのに、不思議と恐怖は感じない。
そして、そのまま目を閉じた。
せめて、夢の中でだけでも、一緒に冒険できるといいなと願いながら。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

………脇腹のあたりがくすぐったい。
何か、鼻息の様な、フンフンと匂いでも嗅ぐような。
「む………、くわあああああ………あ………」
どのくらい寝たのだろう。
大きく伸びをし、自分の脇腹の辺りに寝起きの頭で、ぼーっとしながら視線をやると、俺の匂いを興味深そうに嗅いでいる、巨大なドラゴン。
そのドラゴンと目があった。
…………………。
「っっっきょおおおおおおおおおおおお!!」
「ッ!」
あまりの事に飛び起きて後ずさると、ドラゴンもビクッと頭を引っ込める。
………が、しばらくすると、また鼻先を俺に近づけ、フンフンと匂いを嗅ぎだした。
俺はと言えば、ドラゴンの鼻先を払いのけるでもなく、あまりの事に脳が追い付かず、されるがままにクンクンされる。
………ああ、夢か。

そういや寝る時、夢で一緒に冒険しようなって思いながら寝たんだっけか………。

1 件のコメント:

  1. 普通に面白かった!ジョイスを弄る理由がわからんw

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