2014年5月2日金曜日

祝福短編2

 ――アクア達が、日頃世話になっている礼に、俺にドッキリを仕掛けようとしている。

 そんな話を、ある冒険者から偶然にも聞いてしまった。
 そして、それを聞いた翌日の事。アクアから、前触れも無く呼び出された。
 友人がサプライズ誕生日パーティーを用意してくれているのを知った人は、こんな気分なのだろうか。
 アクアに呼ばれ、ドキドキしながら宿の裏にある空き地に行くと、仲間達が変な遊びをしていた。

「アウトよ! ダクネス、今のはアウト!」
「バカな、ギリギリでセーフのはずだ!」
「私の見立てではアウトです。という訳で、次はアクアの番ですよ」

 アウトだのセーフだの、野球でもしているのかと思ったが、三人とも道具は何も持っていない。
 と、アクアが俺に気付き、こいこいと手を招く。
「丁度いい所に来たわね。カズマが審判をやって頂戴。三人だと、判定が曖昧なのよ」
 ……いや、審判と言われても。

「それはいいけど、何してたんだ? 野球じゃないよな?」
 何気なく聞いた俺に、アクアはおろか、めぐみんやダクネスまでもが驚いた表情を浮かべた。
「ちょっとカズマったら、この人数と状況を見れば一目で分かるでしょう? ここに来て随分経つのに、これが分からないだなんて、私なら、恥ずかしくてちょっと外を歩けないわよ?」
「よせアクア、カズマなりの冗談に決まっている。知らない訳がないだろう」
「そうですよ、普段から情報収集を怠らないカズマが知らない訳がないじゃないですか」

 な、なんだろう、何やってたんだろう。
 と言うか、分からないものは分からない。
 この街では、というか、この世界では常識的な遊びなのだろうか。
 どう答えようかとおろおろしていると、アクアが二人の耳元に口を寄せる。
「ねえ、ひょっとして本当に分からないのかしら。だとしたら私、カズマに失望もいいとこなんですけど」
「いや、そんなバカな。カズマだぞ? 常識に欠ける私達ではあるまいし……」
「普段私達の事を問題児扱いしているカズマが、これを知らないだなんて、そんな……」
 三人のひそひそ話はこちらに丸聞こえだ。
 なんだろう、この遊びを知らないとそこまで大変な事なんだろうか。
 やばい、なぜかドキドキしてきた。

「し、知ってるに決まってんだろ? それより、俺が審判でいいのか? ほ、ほら、その。俺って、審判やった事ないからさ、誰かが審判をやってるところを見ておきたいんだけど……」

 苦し紛れに知ったかぶりをしてしまった。
 この場は知っている風を装ってなんとか誤魔化し、後で調べておこう。
 と、思ったのだが――

「何言ってるの? 審判は男にしか出来ないでしょ? 審判なんて簡単よ、靴を脱いで、そこに正座して見てればいいだけだから」

 アクアがそんな事を言ってきた。
 この世界が変わっているのは知っていたが、何なんだこの妙なルールは。
 俺は素直に靴を脱いで、芝生の上に正座した。
 すると、ダクネスとめぐみんが後ろを向いてしゃがみ込み、肩を震わせ始める。
 早速遊びが始まったのだろうか。

「準備は出来たみたいね。それじゃ、いくわよ!」
 アクアが叫び、勢いを付けて、前屈みになってしゃがんでいるダクネスの背中を、ぽんと飛び越えた。
 すかさず俺を振り返り、どや顔でこちらを見る。
「どうだった? 今のは何点!?」
 俺が点数つけるのかよ!
「おい、ずるいぞアクア! 今のは不意打ちだろう、無効だ!」
「いえ、私の見立てではセーフです。ですよね? カズマ?」
 なんだよアウトとかセーフとか!
 ですよねって言われても分かんねえ!
 困っていると、アクアが言った。
「それより審判、決勝戦で使うジュースがないわ。ちょっと買って来て欲しいんですけど」
「えっ、俺が買ってくるのかよ!」
 なんて理不尽な遊び!
 ――しかし、これはチャンスだ。
 この場から一旦離れ、街の人にこの遊びの事を聞いてからジュースを買って来よう。
 俺は素直にジュースを買いに走り出すと、アクア達が後ろを向き、屈み込んで肩を震わせ始める。

 ――おっと、忘れていた。
 俺は、こちらに背を向けて肩を震わせている三人に近づくと、買ってくるジュースは何味じゃないとダメなのかを……、
「この遊び、超うけるんですけど! カズマったらからかわれてるのも知らず、素直にジュース買いに行ったんですけど! 日頃散々こけにされてるんだし、このぐらいのお礼参りは構わないわよね! プークスクス!」
「なぜ裸足で正座しなければならないのか、疑問に思わなかったのかあいつは。ふっ、ふふっ、だ、ダメだ、笑いが止まらない……!」
「あ、あんな素直なカズマ、初めて見ました! なんなのですか、アウトだとかセーフだとか! カズマが帰って来る前に、みんな笑いを納めて……」
 アクアとダクネスが肩を震わせる中、めぐみんが、笑いながらふとこちらを向いた。
 ――そのまま固まっためぐみんを見て、アクアとダクネスもこちらを振り返り、同じく固まる。

「おいお前ら、俺が考えた遊びをしよう。俺がスタートを言った後。……俺、追う。お前ら、逃げる。俺、スティール。お前ら、脱げる。――では位置について……!」
「ねえ、なぜ言葉が片言なの!? 話し合いって大事だと思うの! 冗談よね! 冗談よねっ!? ああっ、待ってめぐみん! ダクネスも待って! まだ、カズマがスタート言ってない……!」



 スタート。

2 件のコメント:

  1. こういう短編小説もいいですね面白かったです!

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  2. 4人の仲の良さが伝わってきて面白かったです
    そしてやられたらやり返すカズマさんはとても素敵です

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