2014年5月2日金曜日

どらごんたらし 4章

「だ、誰か助けてくれー!この女は頭がおかしい!」

「誰の頭がおかしいのよ!おかしいのはあんたの頭よっ!」

学園にて、俺は今まさに命の危機に晒されていた。
理不尽にも学園内を追い回され、今や突き当りの廊下に追い詰められていた。
誰も関わり合いになりたくないのか、助けるどころか野次馬すら来てくれない。
「おい落ち着けアリサ!話をしよう!ほら、アメをあげよう!」
「いらないわよそんな物っ!あんた、よくも今年もやらかしてくれたわね!どうすんのよこの景品は!」
言ってアリサが俺の目の前に、一枚の紙を突きつける。
そこには……。

『厳正な抽選の結果により、今年の優勝商品は、前大会優勝者を一日自由にできる権となりました。
前大会優勝者のアリサ=リックスターが優勝した場合においては、当学園の生徒を誰か一人、一日自由にできる権を授与します』

「おい待て、こんな紙切れ一枚で、どうして俺が書いたって決め付けるんだ!何か明確な証拠でもあるのか証拠は!」
「こんな奇抜でロクでもない事書くのはあんたぐらいしか思いつかないからよ!しかも、あんたって昔からくじ運だけはやたらといいし!」
アリサの脇にはケルベロスが控えており、主人であるアリサの命令を今か今かと待ち構えていた。
「言いがかりも大概にしたまえアリサ=リックスター!俺を見損なってもらっては困る。俺も、まだ契約はできていないとは言え、竜を得たドラゴン使いの端くれ。今回契約が間に合えば、本気で優勝を狙っていく。それとも、なにかね、アリサ君。君は俺がアリサ君に何かいかがわしい事でもしてやろうと考えるような、君は俺の事を本気でそんなゲスな人間だと思っていたのかね?」
突如、真剣な眼差しで真顔で返す俺に、アリサが思わず言葉に詰まる。
「う………、そ、それは………」
途端に勢いを失うアリサに、俺は更に諭すように言葉を続ける。
「大体、アリサの場合ファンが多いんだ。アリサ、お前は自分で思っているよりも遥かに美しい顔立ちをしているぞ。それはもう、この学園中でお前の事が気にならない男なんてまずいないだろうと断言できる」
「っ!なっ、なななな………」
真顔で言った俺の言葉に、アリサがみるみる顔を赤らめて言葉に詰まる。
あれ?
これは、いけるんじゃないか?
俺の脳内に住んでいる天才軍師がささやいた。
(今です)
(超OK)
「正直、あの優勝景品を見たとき、実は、俺は密かに決意した。俺が、必ず優勝してやるってな。そして優勝したなら、ずっとお前に伝えたいけど言えなかった、言いたい事がある」
「え………っ、それって、その………」
長い金髪の毛先を指でいじりながら、顔を赤らめ、うつむくアリサ。
(さあとどめを!)
(任せろ!)
俺が真剣な顔でアリサに向き直ると、アリサが顔を赤らめビクっとした。
そして、廊下の突き当たりで対峙する俺とアリサに、突然声をかけて来た男がいた。
「あっ、居た居た!おいギース、お前の考えた優勝景品、一日自由にする権って書いてあるが、(わいせつな行為、法に反する行為等は除く)って注意書きを付けさせてもらうってさ、担任が」
「ちくしょうジョイス、お前はバカだ!覚えてろよ!」
「やっぱあんたが原因じゃないのよおおおおおおお!」

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というか、まさかほんとに、今年も俺の書いたものが当たるとは思わなかった。
万が一俺が優勝した暁には、アリサにいつも適当な扱いをされている事への仕返しができるし、俺以外の誰かが優勝した場合も、無茶なお願いでもされて涙目になっているアリサを眺め、優雅にコーヒーでもすすっているってのもいい。
優勝できれば儲け、俺以外が優勝しても儲け、アリサが優勝しても、特にそれほどうらやましくも無いという素晴らしい景品だったのに。
「それじゃあ、何か言い残しておく事はある?」
俺は全身を縛られた状態で校庭の木に逆さに吊られ、アリサはそれを腕を組んで眺めていた。
俺は逆さに吊られながら、無駄とは知りつつ言ってみた。
「今までの事、全て謝るので、許してください」
「断る」
真顔で即答するアリサは、目がちっとも笑っていない。
どうしてこうなった。
あと一息でうやむやにできるところだったのに。とゆーか、
「さっきの反応見た感じだと、案外まんざらでもなかったりした?」
「それ以上何か言ったら、お願いですから早く殺して楽にしてくださいって泣いて頼んでくるような目に遭わせるから」
凶悪なお尋ね者ですらそうそう言わない様な脅しを、アリサが吐いた。
そのとき、強烈な突風が吹き込んだ。
春一番ってやつだ。

「見えた」

腕を組み、スカートを抑えようともしないアリサに、この状況で、何も見えませんでしたなんて白々しい事も言えないので、俺は素直に報告する。
逆さ吊りにされてるものだから、余計にしっかり見えてしまった。
だが、アリサは微動だに一つせず、眉一つ動かすことも、恥ずかしがったりもしなかった。
「………隠さないのか?」
「これから死ぬ人間に今更見られたぐらい、どうだって言うの?」
「………なんでもするので、命だけは助けてください」
「私が、それを聞いてあげるとでも思うの?」
「………………思いません」
木から吊り下げられた俺の周りを、アリサの魔獣達が囲んでいた。
思えば、短い人生だったなあ………。
こんなことなら、もっとジハードと遊んでやればよかったなあ………。
と、その時。
よく聞きなれた、救いの声がかけられた。
「………あ、あの、何してるんですか?二人とも」
俺は声を枯らせて泣き叫んだ。
「ラミネス様ー!」
当たり前の事ながら、状況を把握できていないようだ。
「………えっと、先輩、今度はまたいったい何やらかしたんです?」
「おい、なんで俺が一方的に悪いって決め付けてるんだラミネス!」
ラミネスの姿を見て、アリサの強張っていた表情が若干ほぐれる。
はあ、とため息をつきながら、アリサがラミネスに先程の紙を無言で見せた。
「………先輩、いくらなんでもこれは………」
「なんでお前も、その紙をひと目見ただけで俺が書いた景品だって決め付けるんだよ!俺が書いたんだけども!!」
「や、やっぱり先輩じゃないですか。で、なぜこんなバカな事書いたんですか?こうなるって分からなかったんですか?先輩って、やっぱバカなんですか?」
意外と毒吐くなこいつ。
「はぁ………。もういいわ。元々、大会に出るのも何かが欲しくて出るわけじゃないし。それに、私が優勝すればそれで済むことだしね」
ラミネスが来たことで、怒りが削がれてくれたようだ。
「ありがとうございますアリサ様。しかしまさか、ここまでブチ切れるとはさすがの俺も予想外だったよ。ごめんなさい」
未だ吊られたまま謝る俺に、アリサが微妙な表情で睨みつけてくる。
「………あんた、私がなんでこんなに怒ったのか分かってないの?」
「ん?大会の景品にされたからだろ?」
それを聞いて、アリサがため息をついた。
「………そんな事で、ここまで怒ったりしないわよ。一日自由にできる権って言ったって、たとえ誰が優勝しても、無茶な要求には遠慮なく反撃するつもりよ、私は」
つまり………
「ごまかす為に勢いで口説いた事を怒ってるのか?なんだよ、お前ならあんな事言われるのぐらい日常茶飯事だろ?」
「先輩、それは最低です。それはアリサ先輩も怒りますよ。アリサ先輩なら確かにもてるでしょうけど、女の子をその気もないのに口説くなんて。誰かにそんなことされたら、私ならかじりますよ?」
冷ややかな視線を送ってくるラミネスが気になったが、それ以上にアリサの態度が気になった。
うつむき、若干恥ずかしそうに髪の先を指でくるくるいじり、つぶやいた。
「………ないのよ」
「ん?」
「ない?何がないんですか?」
聞き取れずに聞き返す俺とラミネスに、アリサが真っ赤な顔で叫んだ。
「だから!あんな事言われたことなんて無かったのよ!しかたないでしょ、魔獣連れ歩いてる女なんて、みんな怖がって近づかないわよ!あんたみたいなのでも、あんな顔してあんな事言われたら、普通は緊張したりもするわよ!でも、誤解しないでよね!別に、あんたの事が好きだとか、気になるって言ってるんじゃないのよ!」
………………。
静まり返る俺とラミネスに、若干気圧されたようにアリサがたじろぐ。
「な、なによ………。静かになられても困るんだけど………」
俺は叫んだ。
「ヒャフー!見ろラミネス、どうだ!俺の見る目は完璧だったろ!金髪、お嬢様、幼馴染で気が強い!これだけ揃ってツンデレでなきゃ、アリサは世の男性から石を投げつけられてもおかしくないぞ!」
「先輩、すごいです!今のアリサさんなら、どこに出しても恥ずかしくない立派なツンデレです!」
「あんた達、ちょっと待ちなさいよおおおおお!」
顔を赤くして、涙目で叫ぶアリサがちょっと可愛い。
「おいラミネス、この縄を解いてくれ!ちょっとアリサを抱きしめてやる!」
「了解です!優しく、ぎゅってしてあげてください!」
「あぶりなさい、ケルベロス」
俺の隣で待っていた三つ首の巨大犬、ケルベロスが、俺に炎のブレスを吹きかけてきた。
「助けてぇ!」
「ああっ、先輩!」
炎に炙られ、俺を縛っていた縄が焼き切れる。
当然といえば当然のごとく、俺はそのまま地面に落とされた。
「ぎゃー!」
地面に落ちた痛みと、服についた炎を消すので、俺は地面を転がりまわる。
「全く、この男は………。いいわ、ギース。私が優勝したら、確か学園の生徒を誰でも一人、一日自由にできるのよね。私が優勝したら、あなたを一日自由にさせてもらうわ」
ラミネスに助け起こされながら、俺はよろよろと立ち上がる。
「お、俺をご指名?なんだ、俺の体にいかがわしい事でもする気なのか?残念、さっきジョイスが言ってきたが、(わいせつな行為は除く)って条文が付け加えられるそうだぞ」
俺の言葉に、アリサは怒りも笑いもせず、冷ややかな目で、ふっと鼻で笑ってきた。
「ふふふ、どうしてくれようかしら。一日自由に、ねえ。あははは、どうしてあげようかしら。一日自由に、ねえ!」
「今回の事は俺が全面的に悪かったから、もうほんと勘弁してください」
俺がビクビクしながら、ラミネスの後ろに隠れながら言うと、アリサはただにこにこと笑みを浮かべた。
「大会が楽しみね。ほら、あなた達、そろそろ教室に戻らないと朝礼始まっちゃうわよ?」
そういって、アリサは張り付いた笑みを浮かべながら教室に帰っていった。
「………」
「………」
後には、無言で立ち尽くす俺とラミネス。
俺は、ラミネスにすがりついた。
「ラミネス様ー!どうか、お願いですから優勝してくださいませー!」
「そ、そんなこと言われてもっ!!」

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背後から感じる冷たい視線。
正確には、俺の後ろの席の人間。
後ろの席のアリサから、授業中ずっと視線を感じていた。
怖くて、とても後ろを振り向けない。
これはあかん。
過去、今までも色々とアリサをからかった事はあったが、これは間違いなく過去最大にやばい。
ラミネスに優勝してもらうにしても、アリサ相手では分が悪いだろう。
今日は改めて、アリサを観察して弱点の一つも探っておこうか………。

「それじゃあ、各自ペアを作ってー」

恒例の戦闘訓練の授業。
今日は、俺はジハードを竜舎に置いてきてある。
ジハードの面倒を見ながらでは、アリサの観察をするのは難しいからだ。
「なんだ、今日はあのドラゴンは連れてきてないのか。まあ、俺も助かるが」
恒例の、俺の対戦相手のジョイスが言って来る。
「まあな。というか、ちょっと訳あってアリサの様子を観察してるんだ。今日のところは大人しく負けといてやるから、訓練は適当に頼む」
「いや、負けといてやるって、お前一度も俺に勝ったことねえじゃねーか………」
ぶつくさ言うジョイスを相手に、俺は適当に、ジョイスに殴りかかり、不意打ちし、だまし討ちをしてアリサの観察に励む。
「おい。おい、この野郎。お前、負けてやるから適当に頼むって言っといて、思い切り本気じゃねーか」
「しっ、アリサの訓練が始まる。ちょっと観察させてくれ」
「こ、こいつ………。アリサの相手はボルトか。まぁ、他じゃ相手にならねえわな」
ジョイスがボルトと呼んだアリサの相手。
その男は、ウチのクラスにおいてアリサに次ぐ実力を持つ戦士志望の男だった。
といっても、今までアリサに一度も勝ったところを見た事がない。
「それじゃあ、始めましょうかボルト。今日はどの子がいい?」
「どれでも一緒なんだろうが………、今日はマンティコアで頼もうかな」
アリサとボルトがそんな事を話している。
二人の対戦を見ていると、アリサの影がゆらぎ、そこから1匹の魔獣が現れた。
獅子の身体にサソリの尾を持ち、蝙蝠の羽と美女の顔を持つ魔獣、マンティコア。
獅子の俊敏な動きと、人間のずる賢い知恵を持ち、強力なサソリの毒を持つ魔獣だ。
「いい?毒は使っちゃダメだからね?」
アリサがマンティコアに言い聞かせている。
「うし、そいじゃ、一丁頼む!」
そういうと同時、ボルトがマンティコアに切り込んだ!
マンティコアはその攻撃をなんなくかわし、ボルトの周囲をグルグルとゆっくり回り出す。
獲物の様子を伺うように。
「くそっ、相変わらず、すばしこい奴だ!」
マンティコアを必死に追いかけるボルトを尻目に、アリサはポケットから冊子を出した。
………おい。
「………アリサの弱点観察って、アリサ、戦ってもいねえじゃん」
「だね………」
俺はジョイスに返事を返すと、芝生に座り、冊子を読むアリサを呆然と眺めた。

ダメだ。あの女、思った以上に化け物だ。
普段身近にいたからあまり実感もなくからかったりしていたが、俺は本気でまずい状態ではなかろうか。
ラミネスと互角ぐらいだろうと考えていたが、とんでもないかも知れない。
あの後、ボルトはマンティコア相手にろくな戦いをさせてもらっていなかった。
尻尾で引っ掛けられて転ばされ、ボルトの攻撃は面白いぐらいに空を切る。
結局、ボルトがあちこちにすり傷を負い、訓練時間は終わってしまった。
そして、あのマンティコアにしても、本気を出させていないのだ。
マンティコアが尻尾の毒を使っていたら、一撃で終わってしまう。
そして、確かアリサが影に飼っている魔獣は5匹ほどいたはずだ。
アリサは、本気になればその5匹を一度に襲い掛からせる事ができる。
しかも、魔獣だけではない。
アリサ自身も、そこらの魔法使い志望者顔負けなレベルで、様々な魔法を習得しているのだ。
ええと、………無理だろこれ。

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「作戦は二つある。俺と組んで出場する正攻法と、卑怯だが勝率が上がる秘策だな」
「………え、ええと、正攻法でお願いします」
今日の授業が終わり、その放課後の事。
俺はラミネスと共に居た。
「マジで?ここは楽チンに勝てる秘策でないか?よく考えるんだ、ラミネス。相手は魔王級だぞ」
俺の言葉に、ラミネスがえへへと笑った。
「先輩はドラゴン使いでしょう?私は、ドラゴン使いの強さを知ってます。私のお父さんが、ドラゴン使いだったんです。ドラゴン使いの率いるドラゴンは、最強なんですよ?」
無邪気に笑うラミネスに、激しく心動かされながら、俺はせめてもの足掻きをラミネスに。
「ま、まあドラゴン使いとドラゴンの組み合わせは最強だ。なんせ、ドラゴンは強化されるわ、ドラゴン使いはドラゴンに限りなく近い力を使えるわで、要は、対戦相手はドラゴン二匹を相手にするようなもんだ」
それに、ラミネスがこくこく頷く。
「でもな、今回の場合、俺が弱点になるんだ。お前の場合、まだ成竜じゃあないだろ?当然、俺がお前から借りられる力も制限されたものになる。そこらの一般人よりは強くなるだろうが、アリサの魔獣から攻撃されたら、さすがに俺じゃあひとたまりもないだろう」
「むー………」
「多分、アリサじゃなくても他の連中も真っ先に俺を狙ってくるぞ。まあ、お前と契約すればそこらの相手なら戦えるぐらいにはなるだろうが、アリサは別格だ。アリサの魔法や魔獣に耐えられるのはお前だけだろうな」
「わ、私が先輩を守りますよ!」
拳を握り締め、嬉しいことを言ってくれるラミネス。
ラミネスの意思を曲げさせるのは難しそうだ。
これはしょうがないか。
正攻法でも、可能性がない事もない。
「じゃあ、勝てるかどうか分からんが、正攻法でいってみるか。そういや、俺のわがままに付き合わせる形になる訳だからな。優勝したら、高級ドラゴンフードを腹いっぱい奢ってやる。協力してくれるか?」

「先輩、ここは勝率があがる秘策の方でいきましょう!」

2 件のコメント:

  1. なんて欲望に素直な竜なんだ(ホロリ

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  2. 数少ないタンパク質ゲットのチャンスなんだろうな(ホロリ

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