2014年5月2日金曜日

祝福短編4

 とある昼下がりの事だった。

「一度、本物の魔法使いって奴を見てみたいなあ」

 ギルドの酒場で軽く食事を終えた俺は、お茶を飲みながらそんな事を呟いた。
 その言葉に、目の前にいためぐみんが、スプーンを取り落として口をあんぐりと開ける。
「……い、今、なんと言いましたか?」
「……? いや、一度本物の魔法使いを見たいなーと。この街にも魔法使い職の奴は多いけどさ、俺のイメージの中の魔法使いって感じじゃないんだよな」

 ――その言葉に、ギルドの中の空気が変わった。

「……カズマ、この場の魔法使いに喧嘩を売っているのですか? 魔法使いの名門を輩出する紅魔族として、今のは聞き捨てなりません。……カズマの持つ、魔法使いのイメージとやらを言ってみて下さい。この中にカズマのイメージに当てはまる者が一人でもいたら謝ってもらいますよ」
「いや、喧嘩売ってる訳でもないんだけどな。俺の中の魔法使いのイメージってのはさ……」
 俺が魔法使いのイメージ像を語りだすと、ギルド内の魔法使い達が無言になった。
 一見興味ない風を装っているが、酒を口にしながらこちらに聞き耳を立てているのが分かる。

「まず博識で、モンスターの弱点をすぐ見抜いて、パーティーがピンチに陥ったらそれを切り抜ける知恵を出してくれたり。奇跡の技である、魔法って物に高いプライドを持っていて……」
「いっぱいいますよ! いっぱいいます! そんなのこの場に、たくさんいますよ!」
 俺が語る魔法使い像に、めぐみんがテーブルをバンバン叩いて抗議する。
 よそで聞いている他の魔法使い達もその言葉にうんうんと頷いていた。
「……魔法って物に高いプライドを持っていて、くだらない事に魔法を使ったりしない人かな。……たとえば、ティンダーの魔法で酒のつまみのイカを炙ったり、蒸し暑い夜、馬小屋の中にブリザードの魔法を放ったはいいものの、朝には溶け、馬小屋を水浸しにして怒られたり……」
 その言葉に、正に今、皿の上でイカを炙っていた男と、他数名の者がビクッと震え。

「あとはまあ、お湯がぬるいって騒いでファイアーボールを共同浴場に撃ち込んで火傷した奴とか、金がないからとはいえ、自慢の必殺魔法を土木工事のバイトに使う魔法使いとか……」
「もう止めて下さい! 私達が悪かったと認めますから、それ以上は止めて下さい!」
 めぐみんの制止により、俺はそれ以上を口に出すのは止めておく。
 ギルド内の魔法使い達が居心地悪そうにソワソワする中、俺は話を元に戻した。

「まあ話は逸れたが、俺はちゃんとした魔法使いを見たいんだよ。だって、この街の魔法使いってアレだろ? 気分次第で攻撃魔法ぶっ放して筋肉ムキムキの前衛職とも平気で喧嘩したりしてるじゃないか。魔法使いってのはもっとこう、温和で冷静、思慮深いってのが俺のイメージなんだよ」
「わ、私は結構思慮深く……。すいませんすいません、いつも考えなしに爆裂魔法をぶっ放してますごめんなさい! そんな目で見るのは止めてください!」
「……まあ、とにかくだ。本物の魔法使いを見たい。そうだなあ……。たとえばこのギルドの中に、魔導書とか持ってる奴はいないのか? 本職に、魔法の本の解説とかして欲しいな」
 俺はそう言うと、ずっと聞き耳を立てていた周囲の魔法使い達を見渡した。
 ……と、その場の全員が目を逸らす。

「一人もいねーのかよ! 古の魔法の研究だの魔法陣の解析だの錬金術の実験だの! 魔法使いっていったら研究者みたいなイメージがあるだろ!? ……おいそこ、イカ炙ってんじゃねえ!」





――薄暗い部屋の中。禁じられた呪文でも唱えるかの様な、重々しくも朗々たる声が響き渡った。

「大地の力を閉じ込めし物。母なる海の水の結晶……。紅く……、紅く……! 紅く瑞々しい悪魔の果実よ……! 異形の悪魔の肉と共に、我が業火にて在るべき姿に形を変えよ……!」
 闇色のローブを深く被ったその者は、昂ぶる興奮をもはや抑えようともせず、えもいわれぬ香りを漂わせた鍋の前で、大仰に両手を上げた……!
「我が力により在るべき形を歪められたモノ達よ! 我が血、我が肉、我が糧となれ!」

 ――めぐみんは満足そうにそう唱えると、深く被っていたフードを跳ね除け、できあがったカエル肉のシチューを皿に盛る。
「……なあ、これってシチューだよな? これ作るのに、今の怪しげな儀式は必要だったのか?」
「当たり前ではないですか。今のは言霊と言って、ちゃんと意味のある行為なのです。これを行う事により、安く頂いてきた傷物の食材を、最高級の食材へと変化させる事ができるのですよ」
「……へえ。さすが魔法使い、そんな事ができるのか。魔法使いらしい所を見せてやるとか言っといて料理を始めたから帰ろうかと思ったが。……これって本当に、魔法の実験だったんだな」
「まあ嘘ですが。単にシチュー作っただけですし、料理中の口上も私の気分の問題で……ひたたたた、ごへんなはい、やめてくらはい!」
 めぐみんの頬を引っ張っていると、この薄暗い部屋の外で、バタバタと人が走り回る音がした。
 魔法実験っぽい物を見せてやるとめぐみんが言い出し、ギルドに頼み込んでこの厨房を借り、そして現在に到っているのだが。

「おい、紅魔族の嬢ちゃんが時間稼いでる間に早く準備を! アイツに本物の魔法を……!」
「ねえー! 魔法陣ってどうやって描くんだっけ!? 使い魔召喚の魔法陣、誰か知ってるー!?」
「水晶球とか、魔法使いっぽくないか!? あれってどこで売ってるんだっけ!?」
 魔法使い達がギルド内で大騒ぎをする中、俺はめぐみんの作ったシチューをすすり。
「すまんかった。俺の不用意な一言で、こんな騒ぎになるとは思わなかった。……これ美味いな」
「全くです。魔法使い職の者はプライドが高い者が多いんですから気をつけて下さい。……おかわりはいりますか?」
 めぐみんからおかわりのシチューを貰っていると、厨房のドアが開けられて……!

「準備できたわ! さあ、今から本物の魔法使いってやつを見せてあげる!」




――本当に、どうしてこうなってしまったのか。

「フフッ、まあ聞いて頂戴な。……魔法使いと言えば? そう、ズバリ!」
「あんた、その年で魔法少女とか言ったらはっ倒すからな」
「ッ!? ………………グスッ……」
 ゴスロリみたいな奇抜な格好をしたお姉さんが涙目になって引き下がる。
「……マジかよ、魔法使いといえばジイさんだろと思ってせっかく付け髭買って来たのに……」
「お、俺はハンカチから鳩が飛び出す魔法を披露しようと、公園で鳩捕まえてきたのに……!」
 それは魔法じゃなくてマジックだ。

――と、魔法使い連中がざわめきだしたその時だった。

「ねえ、キミの言う本物の魔法使いって一体どんなの? 思い描いてる魔法を教えてくれない?」
 一体何をするつもりだったのだろう。ハンカチと鳩を抱えた男の隣で待機していた、バニーガールの格好をしたお姉さんが尋ねてくる。
 ……俺はこの街の魔法使い達にそんなに難しい事を要求してしまったのだろうか。
 お菓子の家を出すとか?
 ……いやいや、そんなのはおとぎ話の魔法使いで、そんな事を要求してこれ以上ハードルを上げれば、この街のお菓子屋さんと子供が泣く事態になる。
 魔法使い、魔法使い。
 他に魔法使いができる事……。

「……そうだ。空! ホウキに乗って空を…………! ……って、その顔じゃ無理そうだな」
 困った表情を浮かべる面々を見ながら、俺は言葉尻をすぼめさせた。

「……空。分かったわ。空ね、空を飛んだら、魔法使いだと認めてくれるのね!」
 だが、バニーガールのお姉さんが、覚悟を決めた表情でそんな事を言い出した。
 お姉さんの表情は固く、そこには絶対にやり遂げるという強い意志が感じられる。
 俺は、魔法使い達のプライドを無駄に傷つけてしまった事を少しだけ後悔し、

「『スリープ』!」

 そんなお姉さんの声を聞きながら、……俺は…………。
 ……あれ…………。



――目が覚めると、俺は分厚い布団で簀巻きにされ、更にホウキに括りつけられていた。
 そして、何が起こったのかが分からないでいる俺に、ガチガチに緊張した面持ちのめぐみんが、杖を構えて立っている。
「か、カズマ……。皆が言うには、理論上はギリギリ大丈夫だそうです。私も、理論上は大丈夫だと思います。ちゃんと着地地点には他の人達が待機して、風の魔法で受け止めますから……!」
 他の魔法使い達がハラハラと見守る中、めぐみんが、ゴクリと喉を鳴らして爆裂魔法を……!


「悪かったから! お前ら皆、立派な魔法使いだからっ! ていうか、俺がホウキで飛ぶのかよ!」

3 件のコメント:

  1. カズマたん、自業自得w

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  2. なんでやカズマさん(今回は)何も悪くねえだろ!いやマジで。

    あえていうなら異世界と地球の文化の違いが悪い

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  3. いきなり眠らせられるとかこわ

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